今回はOASIS(オアシス)の3rdアルバム『Be Here Now』(ビィ・ヒア・ナウ)を取り上げます。
1997年8月21日に発売され、今年で24周年になります。
OASISの中でも何かと議論される事の多い作品ですね。
僕の結論から言えばこれは失敗作とは思いませんが、世間的にはどうしても ”失敗”や”駄作”とイメージがある作品になってます。
何故そういう事になっているのか?
その辺りを検証し、本当にそれが正当な評価なのか?という事も考えながら進めていきたいと思います。
なぜ評価が低いのか?
そもそも、なぜこんなにも評価が低いと言われるのか?
簡単にまとめてみましょう。
・ギターの音がデカイなど、過剰なアレンジ
・前作『Morning Glory』との比較によるもの
・メディアの酷評によるもの
・ノエル・ギャラガーが失敗作と言ってるから
よく見る意見としてはこういったものが多いですよね。
それでは1個ずつ掘り下げていきましょう。
曲が長い
実際に『Be Here Now』の収録曲の長さを個別に見るとこんな感じです。
1.D’You Know What I Mean? 7:42(シングル) |
2.My Big Mouth 5:02 |
3.Magic Pie 7:19 |
4.Stand by Me 5:55(シングル) |
5.I Hope, I Think, I Know 4:23 |
6. The Girl in the Dirty Shirt 5:49 |
7.Fade In-Out 6:52 |
8.Don’t Go Away 4:48(シングル) |
9.Be Here Now 5:13 |
10. All Around the World 9:20(シングル) |
11. It’s Gettin’ Better (Man!!) 7:00 |
12. All Around the World (Reprise) 2:10 |
トータル 1:11:33 |
とりあえず5分を基準にそれを超える曲を数えてみると12曲中9曲が該当します。
では、過去のアルバムはどうだったか?
『Definitely Maybe』➡5分以上は11曲中3曲、トータル時間52:00
『Morning Glory』➡5分以上は12曲中4曲、トータル時間50:00
こう比較すると明らかに長くなっていて、5分以上の曲が倍増し、トータルでも約10分伸びています。
と同時に『Morning Glory』(➡関連記事)がいかにコンパクトな楽曲郡で、テンポよく進んでいたかも改めて分かります。
というように時間で比較すると確かに長いのは長い。ただ、曲が長い=駄曲なのか?というのがポイントです。
当然ながらそんな事はないはず。
もしその方程式が成立するなら、世の中の良い曲というのは3〜4分ほどの短い曲に集中するのではないでしょうか?
ポップスのシングルヒット曲に限っていえばその傾向は強いかもしれませんが、それならばクラシックやジャズはどうなるんだ?といった話です。
よって、曲の長さを失敗の原因としてる人はやや論点がズレているかと思います。
曲が長い=駄曲、少なくともこの意識は排除すべきではないでしょうか?
決してノエルのソングライティングが下降線という訳ではないはずです。
ギターの音がデカイなど、過剰なアレンジ
これも度々聴く意見で、ギターの音がデカ過ぎてメロディーの邪魔になっていたり、主張し過ぎているというもの。
確かにギターの洪水と呼ばるれようなアレンジに仕上げれられています。ただ、リアムの声がこれに食われてるのかと言えばそうは思わいません。
充分に力強いボーカルで重厚感のあるサウンドを従ている印象さえあります。むしろハードロック寄りのファンにはこういう音の方が好まれると思います。
しいて言うならアラン・ホワイトのドラムがやや埋もれがちでしょうか。ただ、OASISは元々ギターがやかましいアレンジのバンドなので、そのスタイルからかけ離れているものではないですよね。
あとはストリングス系の強調が目立つ曲あるが、人によってはこの辺りを大袈裟のアレンジと感じてるのかもしれません。
また、イントロとアウトロを引っ張るが曲が多いイメージですが、極端なのは「D’You Know What I Mean?」 「Fade In-Out」「All Around the World」くらいではないでしょうか?
アレンジについては以上のような事が言えますが、これもまた曲の良し悪しに直結してるとは言いがたいです。
「いやいや、それも含めての曲評価だろ」と言われればそれまでなんですけどね。。
前作『Morning Glory』との比較によるもの
セールス面の比較で、「2500万枚売った『Morning Glory』の約半分の950万枚だった」、という意味での失敗。
「そんだけ売ったら充分だろ、普通のバンドならメガヒットだぞ」とういう感じですが、比較対象がバカデカすぎるためこういった事に。
そして、先に書いた通り曲の長さやアレンジによる音の全体像が、前作に比べ万人受けしにくかった。ようは耳触り良く聴きやすいアルバムではなかったというもの。
そういった作風の変化に対応できなかった人は多かったようです。
メディアの酷評によるもの
これも時間差で生まれた手のひらを返した批評かと思います。
仮に『Morning Glory』を超えないまでも、それに近いセールスまでいってれば好意的だったのではないでしょうか?
ただ、少なからずメディアの影響を受けてしまう人はいますので、そういった人には失敗作というイメージが先に刷り込まれるのかと思われます。
ノエル・ギャラガーが失敗作と言ってるから
当事者のノエルがそう言ってるんならそうなんだろうという、どちらかと言えばOASISに興味を持ったばかりの人や、そこまでOASISを深く聴いてない人がそういう傾向にあるかもしれません。
まぁ、当事者の評価がどうだろうと自分の耳で判断するクセはつけておきたいですね。
『Be Here Now 』と当時の状況。
ではアルバムがリリースされた当時の状況はどういったものだったのか?
1997年はあのブリットポップが死んだと言われる年です。
そして、その最後の輝きが『Be Here Now』だったのではないでしょうか?
・凄い作品にしなければいけなかった。
・脱ブリット・ポップ
発売当時はどのメディアも絶賛
「発売当時に悪いレビューをつけたメディアはどこもなかった」とノエルは語っています。
僕も当時のロッキングオンを持っていますが、インタビュアーも絶賛の嵐だし、ノエル自身もかなり高く評価していて、一切否定的な事は言ってません。。
作品の正当なレビューというより、時代の空気感がそうさしてるようなバブリーな雰囲気ですね。
また、前作が万人受けするメロディアスな作品だった事から、今回はあえてダーティな音作りを意識したとも語っています。
あと、さっきの話に一点付け加えると、『Morning Glory』発売時にNMEやQなど多くの英国メディアはアルバムを酷評しました。
ですが、予想を反してアルバムは世界的大ヒットを飛ばします。これではメディアの面目も丸潰れですよね。
なので『Be Here Now』での絶賛レビューは、前回の間違いは二度とするまいといったジャーナリスト達のリベンジでもあったと思います。
だが結果的に『Morning Glory』のセールスに遠く及ばなかった事を考えると、これまた皮肉な結果ですよね。
凄い作品にしなければいけなかった。
『Morning Glry』の世界的な成功、ネブワース25万人ライブの開催を経てのリリースだけに、世間の期待はかなり高かったはずです。
この期待は強制的にでも凄いアルバムを作らなければいけないという無言の圧力でノエルにプレッシャーをかけていた気もします。
それゆえに、王者の風格に恥じないよう過剰なプロダクションが生み出されたと考えるのは深読みし過ぎでしょうか?
脱ブリットポップ
97年、OASISのライバルバンド達はどういう状況だったか?
この年はブラー、レディオヘッドもアルバムをリリースしています。
2月リリースにされたバンド名そのままのタイトル『Blur』は、もはやブリット・ポップではなくなっていました。
デーモン・アルバーンはこのタイミングで「ブリットポップは死んだ」と発言し、このアルバムではあろうことかグランジに近寄り、アメリカインディーロックのサウンドを大体的に取り入れ、ブリットポップに別れを告げています。
一方のレディオヘッドは、6月に『OK Computer』をリリース。
もともとブリットポップという枠に収まっているようなバンドではなかったですが、本作でさらに独自の世界観を深め、急速に飛躍していきます。
その後の反応
2006 年のベストアルバム『Stop The Clocks』の収録曲はノエルにより選曲されましたが、『Be Here Now』からは1曲も選ばれませんでした。
個人的には「Stand By Me」か「Don’t Go Away」あたりのメロウな曲は入れてもよかったと思いますが。。
少なくとも「Talk Tonight」よりかは。。
では、発売から時間を経たこの3rdアルバム、現在はどう捉えられているんでしょうか?
・D’You Know What I Mean?(NG’s 2016 Rethink)
・リアムは高評価
・OASISファンはどう感じてるか?
ノエルは低評価
(OASIS公式チャンネルでは『Be Here Now』について回想する動画がある)
近年この作品についてインタビューされる事も時々ありますが、やはりそれ程イイ評価はしてませんね。
特に曲の長さにが減点対象になってるようで、「All Around The World」はどんどん長くなっていき、今もイギリスのどこかのスタジオで録音され続けていると皮肉りました。
D’You Know What I Mean? (NG’s 2016 Rethink)
ノエルは2016年に「D’You Know What I Mean? 」を再構築したバージョン、「D’You Know What I Mean? (NG’s 2016 Rethink)」を手掛けています。
全体的に音が聴きやすくまとまっており、ストリングスがより効いているアレンジになっています。Led Zeppelinの「kashmir」に似た格好良さがあって個人的にこのバージョン大好きです。
アルバム全曲を後世のために再構築しよとしたらしいですが、膨大な時間と労力をようするので断念したとの事。
リアムは高評価
一方リアムは「多少過剰なプロダクションだが良いアルバムだ」と高評価。
さらには「死ぬ程余ってるからみんな買ってくれ」と呼びかけていました。
ネガティブ発言のノエルに対しては「なら最初から出すな」や「オレなら『Stop The Clocks』に「D’You Know What I Mean?」を入れる」など対抗するような意見です。
実際にソロライブでも「D’You Know What I Mean?」「Stand By Me」「Be Here Now」をセットリストに取り入れましたよね。
また、高評価するリアムについてノエルは「アイツはオレの反対のことを言いたいだけ」と、ここでも二人の意見は交わらない様子。。
OASISファンはどう感じてるか?
先日、僕のTwitterで『Be Here Now』をどう思ってるかアンケートを取ってみました。
結果は以下の通り。
アナタにとってOASISの3rdアルバム『Be Here Now』の評価は❓
— ショウ@Oasis Fan🇯🇵 (@smartmen2021) August 14, 2021
ほぼ高評価の回答になりましたね。
僕のフォロワーさん達なのでOASISファンが多いのは確かですが、それでも最上級の”ファッキン最高”がここまでいくとは想像以上でした。
そして、これまでも駄作や失敗作と評価してる人は僕の周りではほとんど居なかったです。
前半まとめ
失敗作と言われる幾つかの点と、発売当時の状況、さらにその後のギャラガー兄弟の評価も交え書いてみました。
失敗の原因とされる点はその多くがアレンジによるものと考えられ、なおかつ『Morning Glory』との作風の違いによる拒否反応だと思います。
そういった要因がセールスを加速させる事が出来ず、多くの期待を裏切る形になった事から、長年失敗作扱いされてます。
ただ何度も言うように、ここでノエルのソングライティングが低下したとは思いません。
もしそうなら、リアムも良い作品だなんて言わないだろうし、ソロライブで演奏する事はないでしょう。
あとは時代の雰囲気が生み出していた雑念が正当な評価を邪魔していたとも言えます。
そして、発売から20年以上たった今だからこそ、クリアな意識で聴く事をオススメします。
そこでの新たな気付きが『Be Here Now』の真の価値を生み出していくのではないでしょうか?
失敗作かどうかは、その時にアナタが感じたものが全てです。
オマケいろいろ
・カレンダーが違う
・海外でのタイアップ曲
・日本でのタイアップ曲
ジャケット撮影
ジャケットの撮影は97年の4月に行われました。
撮影場所は、ハートフォードシャー州にある、英国プレイボーイクラブの元支配人ビクター・ラウンズの旧宅。
(プレイボーイクラブとは、バニーガールのウェイトレスがいて、クラブやらカジノが入るエンタメ施設。そこの支配人だった人の邸宅)
上空から見るとこんな感じ。
この撮影にも様々な小道具が写っており、ギャラガー兄弟がイイと思ったものをBBCから調達してきています。
ここでも地球儀(1stでもあったね)が登場し、ノエルは望遠鏡でそれを覗いています。
ジャケットの左側に写るカレンダー8月21日はこのアルバムの発売日ですが、69年8月20日にビートルズが最後にスタジオで集結した日の翌日という意味。
中央のプールに浮かぶロールスロイスですが、これは自宅のプールにロールスロイスでダイブしたキース・ムーンへのオマージュ。
ちなみにこの車エンジンは積まれてません。
当然だが、撮影にはかなりの手間隙がかかったようですね。。
カレンダーが違う
10人に1人くらいは26日バージョンのBe Here Now持ってる説。#トリビア #実は #oasis pic.twitter.com/717GCycZ4F
— ショウ@Oasis Fan🇯🇵 (@smartmen2021) July 21, 2021
米国盤とカナダ盤のみ発売日が97年8月26日だったため、ジャケットのカレンダーもそれに合わせられています。
ボーンヘッドの母親に捧げらている
ジャケット裏の1番右下に、「This record is dedicated to the eternal memory of Delia Arthurs」という文章があります。
これはPaul Arthursことボーンヘッドの母親の事で、アルバム製作中に亡くなってしまいました。
バンドは追悼の意を込め、アルバムを亡くなった母親に捧げています。
また、ノエル曰く「永遠に忘れられる事のないOASISの作品に記しておけば、母親も永遠だ。」との事です。
海外でのタイアップ曲
Stand By Me
2021年と最近ですね、英国の銀行Halifax(ハリファックス)のCM曲として使用されました。
日本でのタイアップ曲
Don’t Go Away
この曲、日本では1998年にドラマ『ラブ・アゲイン』の挿入歌で使用されました。
ちなみに主題歌はthe brilliant greenの「There Will be love there〜愛のある場所〜」。
All Around the World
割と最近です、2020年には「All Around the World」が三井住友銀行(SMBC)のCMソングになりました。
イメージキャラクターは八村塁選手!
他のバージョンは三井住友銀行(SMBC)公式チャンネルで。
以上です、ありがとうございました!